プライドがチョモランマで崩壊しそうだってよ

プライドが高い33歳女子の普通の日常を小説形式でお届けします。

【所詮は赤の他人】

もう何時間たったのだろう。


窓の外からは、学校が終わって下校する子供たちの元気な声が遠くの方から聞こえてきた

 


ワタシは何時間も崩れ落ちた場所から動くことができず、コーヒー豆も8時間ほど転がったままだ
ラインの内容が何度もぐるぐると頭を回る

 

 

 

ナンデ――――――― ………

 

 

 

それは、カズキにまた裏切られて悲しいとか、嫁からの脅しともとれるラインへの恐怖心とか、
もはやそういう感情ではない。

 


それはこのラインには何か強烈な違和感を感じていたから。

 

 

 

 

 

 


なぜ嫁は自分の夫から送っているメールも見ているはずなのに、そんな冷静でいられるの?


最初に連絡をよこしたのはカズキの方なのにワタシばっかり・・・


もう金輪際、わが家を荒らさないで?


これじゃあ、ワタシが一方的に連絡をしているみたいじゃない…

 

 

 

 

 

 


!!!

 

 

 

 

 

あぁ、
そういうことか…

 

 

 

(カズキ、自分のラインは ちゃっかり消してるんだ―――――――。)

 

 

その瞬間、以前カズキの嫁から送られてきたメールの内容が脳裏によぎった。

 


""「自分はあなたに興味がない」と伝えても全く受け入れてもらえず、でも、得意先様なので適当にはあしらうこともできないと本人も悩んでいます。""

 

 

 

フフフ

 

 

 

全ての辻褄があった今、ワタシの中で計り知れない虚しさと、凄まじい憎悪感が生まれてきた。

 

 

もう、もうすべてがくだらない。このまま実家に戻って、ケータイの番号も変えて、うんざりするすべてのものから逃げてしまおうか…

 

 

そのときだった。

 

 

 

 


ピンポーン♪

 

 

 

 


ドアの向こうにいたのは・・・・カズキだ。

 

 

 

まさか…、家に来るなんて・・・!

 

 

今更何を言いに来た?

悲しみと怒りで爆発しているはずなのに、でも、ドアの向こうにはまぎれもなくカズキがいる・・・。


居留守を使うこともできるが、このままではワタシだけ泣き寝入りすることになるのは目に見えているし、カズキに会うのはこれが本当に最後になるかもしれない。

 


思い切ってドアを開けてしまいたい気持ちもあったが、
でも、やっぱり嫁から慰謝料を請求されて憔悴しきっているボロボロのワタシを見られたくないし、
散らばったコーヒー豆も見られたくないのでインターフォン越しに応答することにした。

 

 

 

スマホの録音ボタンを押した上で―――――――。

 

 

""ハ、イ…。""

 

 

 

""あ、出てくれてヨカッタ。あの、、その!
このままでいいから、とにかく俺の気持ちを聞いてほしい。

今朝は変なメール送っちゃってごめん。嫁が勝手に…。

慰謝料なんてとんでもないし、本当にごめんな。嫁にもよく言っとく。

キズツケテ、ゴメン…、、あと、、、サルシッチャのパスタの件は、本当だから…。


じゃあ。(ガチャ)""

 

 

カズキが自らワタシの家に来たこと、今日の朝のメールは嫁が勝手にやったこと。
そして、サルシッチャのパスタの件は本当にまた行きたいと思ってくれていること。

 

 

これでようやくこっちも証拠をとることができた。

 

 

イイコを今まで演じてきたけど、復讐ってこういうふうにやるんだね――――――

 

 

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それからというもの、私は空想の話をカズキに送りまくった。
もちろんその先にいるカズキの嫁に届くように―――

 

 

明日は来るよ、ワタシのために。

 

 

 

カズキからの返信はなくても、もうどうでもいい。

忘れられない女

カズキから連絡が来た日は眠れるわけも無く、興奮して何度も何度もラインの画面を開いた。

返信してはいけない。そう心に決めて。

 

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---------

翌朝起きてもカズキから来たラインが残っていて夢じゃなかった事を確かめる。
その日は1日浮かれていて、カフェにPCを持ちこみ転職活動の為にも何社かエントリーすることができた。

夕飯はいつもよりちょっとだけ良い刺身を買って、普段は飲まないシャンパーニュを飲んだ。

 

 

 

 

 


気持ちよくなっていたときに、あれは運命のイタズラだったのかも・・?


カズキが好きだった岡本真代のtomorrowがテレビから流れてきた。

 


”季節を忘れるくらい いろんな事があるけど
二人でただ歩いてる この感じがいとしい”

 


このフレーズを聞いたら勝手に涙が出てきて、そしていてもたってもいられなくなり、ラインの画面を開いてしまった。
そして、返信はしないと決めていたのに、一度だけ一度だけと返信をしてしまった。

 

 

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あんなひどいことがあっても、ワタシはカズキがすきなんだ。
自分の気持ちにウソがつけなくなってしまった。

 

 


しばらく既読にならないラインの画面を見ながら、不安と期待が入り混じる心境で眠りにつく。

 

 


「明日の朝は返信きていますように・・・・」

 

シャンパーニュの力もあって、すぐに眠りにつく事ができた。
zzzz

 

 


朝起きると未読のラインが1つ来ていた。
急いで開くと以前スタンプ欲しさに登録した企業からのラインだった。


こんなにもラインをみてガッカリしたことはない。
その企業のことも少し嫌いになった。

ただ、カズキとのライン画面を見たら既読になっていた・・・

 

うれしい。

 


自分の気持ちがカズキに届いたというだけでもうれしい。

どんだけワタシはカズキを愛しているのだろう。

こんな些細なことひとつひとつに喜んでしまう。


朝食はメゾンカイザーのクロワッサン。
お気に入りのコーヒーはカルディのイタリアーノ。
お値段以上の香りと味わい。

今までは時間がなくて出来なかったけど、コーヒーミルでガリガリと豆を挽く時間が至福のとき

 

 

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こんな余裕が生まれたのも仕事をやめたから。カズキのおかげ・・かもなんて少し前向きになってみたり。

 

 

ピョロン

 

 


1通のラインが届いたよう。
期待に胸膨らませ、画面を開く。

 

 

 

 

 

 


ガッチャーーン

 

 

 

 

 

 

持っていた携帯も挽いていたコーヒー豆も全て落してしまうほどの破壊力があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ワタシには”明日”はこないかもしれない・・ 

忘れたい男

ツライ 悲しい 消えてしまいたい


会社を辞めて明日で一週間が立つ。

 


マイと美香、そしてカズキからも当然連絡はない。

 


今まで忙しく働いていたから友達からメールが来ても返信が遅れがちだったワタシ。

 

誰からも連絡がこなくなった今、時間を持て余しすぎて気づいたら友達の友達の2年くらい前までのフェイスブック記事も読み切った。

 


失業とともに大切だと思っていた人も、自分の居場所も全部消えてなくなった。

 

 

 

(あんな大事件があったんだもん。仕方ないよね。)

 

 

自分にそう言い聞かせる。

 


次の会社を探さないといけないけど、パソコンを開くと決まって
『失恋 立ち直る 方法』『不倫 逆襲 どうやって?』のワードばかりを検索してしまっている。

 


ワタシはカズキを吹っ切れる日がくるのだろうか。
カズキは何事もなく奥さんとこれから生まれてくる赤ちゃんを楽しみに過ごしているのだろうか。

 


そう思うと、また涙があふれてくる。


今日の夕飯はスーパーで買って来たカニが入っていないカニクリームコロッケともやしのナムル。
昨日の夕飯は閉店間際に安売りしていた焼き鳥やのつくね五本ともやしのナムル。

 


モウドウデモイイ。

 


カズキとシャンパンを奏でた頃が懐かしいな…

 

 


スマホで撮ったカズキとの写真を眺めながらカニクリームコロッケを食べていると
画面の上にラインのメッセージが表示された。

 



カズキだった。



なんで・・・、もう連絡なんて来ないと思ってたのに・・・!!!!!!!

 


思ってもいないタイミングで食欲が一気になくなった。

 


メッセージがすごく気になるけど、開封すると既読がついてしまう。
しかもカズキからまた優しい言葉をかけられたりなんかしたら・・・


今のワタシは自分を抑えることができるのだろうか。

 

 

震える手でメッセージを開封した。

 

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”とつぜん、会いたいなんて、夜更けに何があったの?”


ずっと一緒にいようね、と誓った指切りの壁紙に心がギュッと締め付けられた。

 

 

 

 

会社を辞める

 


全社ALLのメールで個人名指しの不倫暴露メールが送られてきは、上層部が黙っているはずがない。

 


周りがまだヒソヒソと話している中、部長の長田さんに呼ばれた。

「中村さん、今時間いい?応接室きてくれる?」

 


応接室に行くとそこには長田部長だけでなく、人事部長も同席していた。

 

 

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------------察した-----------

 

 


人事部長が同席しているなんて、もう私はこの会社に残る事が出来ないということだろう。

 


「なんだか大変なことになってるね?まずは事実確認だ。あのメールの内容は本当か?桜井君もうちのこに手を出すなんてやってくれたもんだよ・・」

 

長田さんには新卒入社のときからお世話になっていて、プライベートな話もするほど信頼関係を築けていた。
こんな形で信頼関係を壊してしまうなんて・・

 


「申し訳ございません、事実です。」


愛し合ってた確信はあったけど、今それを言ってもどうしようもない。

取り乱す無様な姿を長田部長に見せるなんて恥ずかしい。今にも泣いてしまいそうだったが、弱い自分を出すわけにはいかなかった。

 

「中村さん、人事部の山辺です。プライベートな部分が会社全体に通知されてしまいお辛いとおもいます。
今後もおそらくウワサは続くでしょうし、このような事態が発生した場合、出世も厳しいと思います。
お取引様にもすぐに話は広まるでしょう。今のまま総合職で続けていくのはご自信の精神がもたないと思います。
それで・・」

「ヤメサセテイタダキマス・・・」

 

  


頭が真っ白なまま口が勝手にそう言っていた。

 

 

 

 

 

-------------
その後、何を話したかなんてたいして覚えていない。

 

 

 

 

 


結局メールが送られた日から有給休暇を取得することになり、急に30日間も休む事になった。
もちろん転職活動をしないといけない期間ではあるが、忙しく働いていた体、そして心をゆっくりと休めようと思った。

 


カズキとはあの日以来連絡を取っていない。
カズキのせいで私の人生が狂った。

両親に会社を辞めると告げたときも泣いて止められた。

本当のことは言えない、だからついウソをついた。
「女の先輩にくだらないいじめをされた。精神的苦痛で生理が止まった。あんなとこで働き続けたらもっと身体を壊してしまう。
同期も仕事バカばかりで話のレベルが合わない。正直名前だけで中身空っぽの銀行」


そしたらそのウソを信じたようで、「それなら仕方ないね」と言ってもらえた。


不倫が全社にバレタ。なんて本当のことは絶対に言えない。
ウソを言う事で平和になる。ウソが平和を作る事もある。これでいいんだ。

 


・・・・・・・・・・・・

 

 

毎日、何も考えていないのに涙が出る。

 

 

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~涙の数だけ強くなれるよ アスファルトに咲く花のように~

 


カズキのイヤフォンから漏れた岡本真代のトゥモローがリフレーンする。

こんなに悲しいことがあってもカズキを忘れられない。

 

自分は泣いても強くなれないし、ただの雑草。

 

 

 

 

でも、負けない。アスファルトに咲く花になるために。



明日は来るよどんな時も
明日は来るよ君のために”

 

女の逆襲

「シ・シオリ、なんか…全社allにへんなメール来てるけど…

コレ・・・ほんとなの?なわけないよね…さすがに・・・」

 

隣のデスクの同期・明代がPCの画面に釘付けの状態で話しかけてきた。

 

 

(ユーガッターメエル!ユーガッターメエル!ユーガッターメエル!…)

 

 

オフィス中に鳴り響くメールの受信音。


あまりの衝撃で、明代と目を合わせることができない。

 

 

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Subject:ナカムラシオリは泥棒猫

 

 

message:
ナカムラシオリは得意先の桜井カズキとデキてる。
先週桜井の嫁に黙って行った奥多摩の紅葉はきれいでしたか?

遊ばれているとも知らずにおめでたい 子で、
愛されていると勘違いしている鈍感女。
こんな可哀そうなナカムラシオリがこれからも会社で活躍できますように。

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悩みを相談した翌日にはこのありさま。

 

やっぱり美香とマイにカズキのことを打ち明けるべきではなかった。


と、後悔してもあとの祭り。

 


美香とマイが一緒に出社してきた。

 

どうせきっと、会社の行きしなに、シオリが今日ショックを受ける顔が楽しみだね、
とでも言い合って盛り上がっていたのだろう。

 

女の友情ほど、もろくて、汚くて、嫉妬深いものはない。

 

こんな仕打ち、あまりにもひどすぎる。


好きになった相手はみんな同じなのに・・・

 


親友だった美香とマイが自席についてPCを開く。


顔を見るのがつらい…
でも、PC画面の延長線上に美香とマイのデスクがあるから嫌でも目に入ってしまう。

 

 

(ユーガッターメエル!ユーガッターメエル!ユーガッターメエル!…)

 

 

そのとき、驚いた表情でPCの前でフリーズしたのは美香もマイも一緒だった。


え?なんであの二人も・・・??!


と、そのとき、シオリのケータイがなった。

嫌な予感がした・・・

 

 

 


「今頃会社で青ざめている頃でしょう?」

 

 


差出人のメアドは見たことがないアドレス。

 

 

いや待って!

 

 

ドメインの前のアドレス…


surfin-loveko@chomoranma.xx.jp


カズキのはたしか・・・

 

 

surfin-loveo

 

 

 

 


かずきの嫁にバレたんだ。

 

 

 


その瞬間、シオリの背中から一筋の汗が流れるのが分かった。

 

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カズキの嫁からのメールの内容はこう続いていた。

 


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旦那からは以前より、つきまとわれている女性がいると相談は受けていました。

「自分はあなたに興味がない」と伝えても全く受け入れてもらえず、でも、得意先様なので適当にはあしらうこともできないと本人も悩んでいます。

これ以上、わたしたち夫婦を悩ますようなことはやめてください。

最近のあなたの異常な行為で旦那はひどく弱っています。

会社にメールをしたこと、ご容赦ください。


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女の友情

「イタイって何?ワタシの何がイタイわけ?」


プライドが崩れ落ちたついでに思い切ってケンスケに聞いてみた


「おまえ背伸びしすぎだろ?ありのままのシオリでいいのになんでそんなに背伸びするんだ?」


「背伸びって・・・だって・・」

 

 

ワタシハイイコダッタノニ・・・・

 

 

 


======8年前===================

 

カズキの妻からのメールを見てしまった・・旅行中はどうにかカズキにバレないように努めたが、心の中のモヤは決して晴れず。


美しい青空の下を歩く事がつらくなっていた。


カズキは奥さんと愛し合ってたの?そんなまさか・・毎日こんな事を1人で考えては否定し、食欲もなくなり血色も悪くなった。

同期のマイと美香とは相変わらず他愛も無い話をする仲ではあったが、カズキのことを言ってはいなかった。

言える分けない、マイと美香はカズキのことが好きで玉砕しておかしくなった2人だから。

それももう時効でいいかな?

 

今の辛さをわかって貰えるのは2人なのかもしれない。


「今日は2人に聞いてもらいことがあるの」


会社のメールで連絡する。すかさずマイから返信。


「おっと、その感じはしんみり系だね?【こみね】でしっぽりと行きましょうか。」

続いて美香からも。

「【こみね】了解。マスターにTELしておきます。19時から3名個室でーー!」

 

チームワークが良すぎて泣けてくる。

本当に信頼できる2人だから、きっと励ましてくれる。今の私を救ってくれるのは2人だ。

 

そう確信した。

 

18時50分、マイと美香とエントランスで待ち合わせをして行きつけの焼き鳥や【こみね】に向かう。
この店は高層ビル街にある割りにリーズナブルで美味しいから3人でしっぽり飲むときは決まってココ。

 


「改まって、話ってなによ?カレシでもできた?

マイがぐいぐい聞いてくる。


「えっと、、、実は、、、今、付き合ってる人がいます。」


「ええええええええええええええええええええ!!!シオリそんなことぜんぜん言ってなかったじゃん!誰々??」


マイと美香は思ったとおりの反応。


「誰!?!どんな人?!教えてよーー!」

 

・・・・・・・


少しの沈黙の後私は口を開いた

 

 

 

「サクライカズキさん・・・」

 

 

 

 

 

「え」
「え」

 

 

 


マイと美香は30秒ほど黙り込んでしまった。

 

 

 


「えっと、あの結婚してるのは知ってたし・・マイと美香が昔、恋してた事も分かってて・・でもそれでも好きになってしまって・・
マイと美香はもう3年前に終わって・・」


しどろもどろに説明していたら、美香が遮って話を始める。

 

「あのさぁ、カズキっ・・あの最低オトコと付き合ってるわけ?!ねぇ、シオリ?あぁ、あんたねぇ、、、


あのさ、黙ってたけど本当のこと教えてあげるわ。

3年前にさマイとさ私で既婚者だから諦めたっていってた時、実は諦め切れなくて私はカズキとつながってたんだよね。
奥さんとは愛なんてないからって言ってたし。

マイの前では諦めたふりしてたし既婚者と知って辛いっていうそぶりでいたけどさ。

それで、私がさ会社のお金に手をつけたのも、、

あれってカズキとシンガポール旅行行った時にカジノでカズキが200万ぐらい大負けしちゃって、子犬のようにクンクンなくからさ会社のお金に手をつけてしまったんだよ。

そこまでしてあげたのに、旅行の翌月には妻にばれそうだからこの関係やめたいってメールを送ってきてさ、私もバカだから体だけの関係でもいいからってそっからグダグダ今も続けてるよ・・・


今さ、あいつの奥さん妊娠してんだよね。つーか私はカズキの子供一回堕ろしたのに・・産みたかったのに・・・むかつく。」

 

 

 

「・・・・え、そんな・・」


耳を疑うようなカズキの話に動揺が隠せなかった・・・


美香にはかける言葉も見つからなくて・・

 

何分沈黙が続いただろう。

 

 

 

 

 


次に話し始めたのはマイだった。

 

「ひどいよ・・・2人ともひどいよ・・・


私にだまってカズキと付き合ってた!?なんでコソコソそういうことするの・・

 

 

ごめん今日帰る。
もう今までどおり友達に戻る事なんて無理だから。

しばらくほっといてほしい。」

 


マイは3千円置いて帰っていった。

 


「シオリとカズキが付き合ってたなんて本当にむかつく・・あたしも帰るわ。あんた、痛い目みないといいね。」

 

 

 


美香はまだカズキのことが大好きなんだな・・
意味深な言葉を残して美香も帰っていった。

 


カズキのことを相談したかっただけなのにとんでもないことになってしまった。。女の友情はもろいな。

 

 







事の重大さに気付いたのは、翌日会社に行ってからである。

 


全社宛てに匿名でワタシとカズキの付き合いを告発するメールが届いていたのだ。

 

 

 

 

 


ヤラレタ

 


==================

 

 

 

 

 

 

ひさしぶりの再会

「シオリさぁぁぁーん。今日電車でお店までむかうのでいいですかぁぁぁぁあ?わたし給料日前で、タクシー代払うのちょっときつくって…」

 

トイレで入念に顔のチェックをしていると、マリがモジモジしながらやってきた。

 

 

 

マリ、、、

 

 

 

ナイスジョブ。

 

 

 

「えーそうなんだあ!今日そっかぁ!!23日給料日前だもんね!ウンウン、マリちゃん気にしないで!電車で行きましょう。ワタシも久々電車で渋谷行ってみたいし!なんか渋谷の駅も変わったらしいよね、いつもはタクシーだから全然知らないんだけどぉ。」

 

 

もやし生活3日目。こんな 状況だからこの前の揚げ物三点盛り定食800円も正直痛い出費だった。 貯金はすでにカラッケツで今日どうやって電車で向かう口実を作ろうかテキトーに考えていたが、マリのおかげで手間が省けた。

 

 

「シオリさぁぁん!ほんとやさしいぃぃぃ!じゃあ今から駅に向かいマショォオ・・・」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

裏恵比寿 【おだいどこ "座 山民"】

 

今日の会場は、全国津々浦々でとれた新鮮な魚と産地直送の有機野菜がウリらしいカジュアルな割烹居酒屋。

 

「えっとぉぉぉぉぉおー、ヤマウラで予約していると思うんですけどぉぉぉぉ・・?」

マリが店員に予約名を伝える。

 

前から気になっていたが、マリの語尾をやたらと伸ばすカマトト口調は本当に耳に障る。 アラサー女子はさすがにできない、いや、あんなバカ丸出しの喋り方ほんとに見ていて恥ずかしい。

 

 

店員に案内され、部屋に入ると、すでにマリのバカ大時代の女友達が2人、その向かいには意外にも中の上レベルのダンシが3人座っていた。

 

 

「やまうらさぁぁぁんお久しぶりですぅ!お待たせしてしまってすみませんんん・・・あっ!みんなぁぁぁーー !おまたせえええぇぇ」

 

幹事は山浦というらしい。

 

「マァリィィィッィイィ~!おつかれぇえぇぇぇー!くびをながぁぁぁくして、待ってたよぉぉぉっぉおおー!」

 

予想的中。類友だ。

 

「マリちゃん久しぶりだね!いや、おれたちも今来たとこ。1人はちょっと遅れてて…もうすぐ着くみたいだから先に注文しちゃおうか。」

・ ・ ・

 

割といい。割といい。

シオリの頭の中で今日のオトコら 『ワリトイイ』のフレーズがこだまする。

 

ルージュはひいたものの全く期待していなかった分、余計にやる気が湧いてくる。 正直この3人の中なら誰でもいい。

 

まっ、日ごろから培ってきた得意の虚言壁と自分をよく見せるテクニックでオトコなんてチョロイッショ。

 

 

 

「みんな最初の乾杯はビールでいい?」

 

 

このあと司会進行役になると思われる山浦がみんなに一杯目のお酒を確認している。

 

 

マリ    :「えぇぇーわたしはゆず梅酒サワーでぇぇぇ!」

 

マリの友達 :「 ワタシたちはぁ、長野県産巨峰の乙女ハイサワーとぉぉぉ、(え?なにする?コショコショ…)とろりん天使のモモの気持ち、、でおねがいしまぁぁす」

 

 

 

フッ

 

 

 

シオリ:「 わたしはビールでおねがいします♫」

 

山浦「おっ。シオリちゃんビール飲めるんだ!いいねー!!」

 

 

ワタシは知ってる。一杯目ビールを頼む女子は意外にもウケがいいということを。

 

「じゃあ店員呼ぶねー、あっ、料理は今日アラカルトだから気になるのあったらバンバン頼んでね!」

 

あっ

 

メニューを見ると大好物の豚しゃぶがあるではないか。 二番目に好きなタコの吸盤揚げもある。

 

いや、ダメだ。先ほど心の中でも言ってたじゃないか、自分をよく見せるテクニックのルールにこれは違反する。 今回は非常に残念だが、結婚もしたいからここはガマン

 

 

メニューを見ているとふすまがあき、店員が来たようだ。

 

「あ!ワタシ、チェリートマトと三種の水牛モッツァ…」

 

「シオリは豚肉じゃねーの?」

 

エ?イマナンテ・・・?シオリはおもわず顔を上げた。

 

「あ!山口先輩お疲れさまっスー!以外に早かったすね!!」

 

「あーわりい、明日のY社のコンペの提案書まだ完成してなくてさ!NAつかえねーからBNに資料任せて抜けてきたわ。」

 

そこにいたのはストライプのスーツをまぶしいほどに着こなしている、いたずらな表情を浮かべたケンスケだった・・・。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「おまえ、ほんっと久しぶりだなー!」

 

ケンスケは偶然にも山浦の先輩。まさかケンスケがヤイバーエージェントだったとは・・・

 

「ケンスケこそ久しぶり。ほんっとあんた全然変わってないよね。今日は余計なこと言わないでね!」

 

ケンスケのことを『あんた』と呼ぶのはこの日が初めて。

あたかも自分のことをよく知っている特別なオトコ扱いをしてみたりするのが心地いい。

 

山浦「え!なんか偶然?の、再会?的な~?!?!始まって早々仲良く痴話げんかとかやめてくださいよぉー」

 

こうして朗らかな雰囲気で飲み会が始まった・・・。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

(おい、シオリ!もう起きろ・・)

 

眠気まなこでうっすら目を開けると、そこには心配そうにのぞき込むケンスケの顔があった。

 

畳にはウィスキーのからのボトルが転がっている。 どうやら飲みすぎてワタシは途中でつぶれたらしい。

 

「え・・・・?みんなは!?」

 

「みんなは2次会のカラオケに移動したよ!おまえ起きないからオレまでカラオケ行きそびれたよ!」

 

ワタシは今日のオトコの顔面レベルが中の上だったこと、久しぶりにケンスケと再会できたことで テンションが上がり、どうやらかなりのハイピッチで酒を飲んだらしい。

 

シオリ、絶体絶命。 今までプライドを守るため、ウソで塗り固めた毎日を8年間も続けてきたのに、その努力が一瞬で水の泡となっていく・・・

 

後輩の前で失態を見せてしまったかもしれない。 さらにはケンスケばかりか、他のダンシたちにもドン引きされてもう絶対嫌われた。

 

少しの間、放心状態に陥っていると、ケンスケが低い声で不思議そうに問いかけてきた。

 

 

「おまえさ、なんかすげえ変わったよな?それとも単に酔っぱらってるだけ?・・なんか、お前見てるとイタイ。」

 

ワタシのプライドは完全に音を立てて崩れていった。