プライドがチョモランマで崩壊しそうだってよ

プライドが高い33歳女子の普通の日常を小説形式でお届けします。

ひさしぶりの再会

「シオリさぁぁぁーん。今日電車でお店までむかうのでいいですかぁぁぁぁあ?わたし給料日前で、タクシー代払うのちょっときつくって…」

 

トイレで入念に顔のチェックをしていると、マリがモジモジしながらやってきた。

 

 

 

マリ、、、

 

 

 

ナイスジョブ。

 

 

 

「えーそうなんだあ!今日そっかぁ!!23日給料日前だもんね!ウンウン、マリちゃん気にしないで!電車で行きましょう。ワタシも久々電車で渋谷行ってみたいし!なんか渋谷の駅も変わったらしいよね、いつもはタクシーだから全然知らないんだけどぉ。」

 

 

もやし生活3日目。こんな 状況だからこの前の揚げ物三点盛り定食800円も正直痛い出費だった。 貯金はすでにカラッケツで今日どうやって電車で向かう口実を作ろうかテキトーに考えていたが、マリのおかげで手間が省けた。

 

 

「シオリさぁぁん!ほんとやさしいぃぃぃ!じゃあ今から駅に向かいマショォオ・・・」

 

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裏恵比寿 【おだいどこ "座 山民"】

 

今日の会場は、全国津々浦々でとれた新鮮な魚と産地直送の有機野菜がウリらしいカジュアルな割烹居酒屋。

 

「えっとぉぉぉぉぉおー、ヤマウラで予約していると思うんですけどぉぉぉぉ・・?」

マリが店員に予約名を伝える。

 

前から気になっていたが、マリの語尾をやたらと伸ばすカマトト口調は本当に耳に障る。 アラサー女子はさすがにできない、いや、あんなバカ丸出しの喋り方ほんとに見ていて恥ずかしい。

 

 

店員に案内され、部屋に入ると、すでにマリのバカ大時代の女友達が2人、その向かいには意外にも中の上レベルのダンシが3人座っていた。

 

 

「やまうらさぁぁぁんお久しぶりですぅ!お待たせしてしまってすみませんんん・・・あっ!みんなぁぁぁーー !おまたせえええぇぇ」

 

幹事は山浦というらしい。

 

「マァリィィィッィイィ~!おつかれぇえぇぇぇー!くびをながぁぁぁくして、待ってたよぉぉぉっぉおおー!」

 

予想的中。類友だ。

 

「マリちゃん久しぶりだね!いや、おれたちも今来たとこ。1人はちょっと遅れてて…もうすぐ着くみたいだから先に注文しちゃおうか。」

・ ・ ・

 

割といい。割といい。

シオリの頭の中で今日のオトコら 『ワリトイイ』のフレーズがこだまする。

 

ルージュはひいたものの全く期待していなかった分、余計にやる気が湧いてくる。 正直この3人の中なら誰でもいい。

 

まっ、日ごろから培ってきた得意の虚言壁と自分をよく見せるテクニックでオトコなんてチョロイッショ。

 

 

 

「みんな最初の乾杯はビールでいい?」

 

 

このあと司会進行役になると思われる山浦がみんなに一杯目のお酒を確認している。

 

 

マリ    :「えぇぇーわたしはゆず梅酒サワーでぇぇぇ!」

 

マリの友達 :「 ワタシたちはぁ、長野県産巨峰の乙女ハイサワーとぉぉぉ、(え?なにする?コショコショ…)とろりん天使のモモの気持ち、、でおねがいしまぁぁす」

 

 

 

フッ

 

 

 

シオリ:「 わたしはビールでおねがいします♫」

 

山浦「おっ。シオリちゃんビール飲めるんだ!いいねー!!」

 

 

ワタシは知ってる。一杯目ビールを頼む女子は意外にもウケがいいということを。

 

「じゃあ店員呼ぶねー、あっ、料理は今日アラカルトだから気になるのあったらバンバン頼んでね!」

 

あっ

 

メニューを見ると大好物の豚しゃぶがあるではないか。 二番目に好きなタコの吸盤揚げもある。

 

いや、ダメだ。先ほど心の中でも言ってたじゃないか、自分をよく見せるテクニックのルールにこれは違反する。 今回は非常に残念だが、結婚もしたいからここはガマン

 

 

メニューを見ているとふすまがあき、店員が来たようだ。

 

「あ!ワタシ、チェリートマトと三種の水牛モッツァ…」

 

「シオリは豚肉じゃねーの?」

 

エ?イマナンテ・・・?シオリはおもわず顔を上げた。

 

「あ!山口先輩お疲れさまっスー!以外に早かったすね!!」

 

「あーわりい、明日のY社のコンペの提案書まだ完成してなくてさ!NAつかえねーからBNに資料任せて抜けてきたわ。」

 

そこにいたのはストライプのスーツをまぶしいほどに着こなしている、いたずらな表情を浮かべたケンスケだった・・・。

 

 

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「おまえ、ほんっと久しぶりだなー!」

 

ケンスケは偶然にも山浦の先輩。まさかケンスケがヤイバーエージェントだったとは・・・

 

「ケンスケこそ久しぶり。ほんっとあんた全然変わってないよね。今日は余計なこと言わないでね!」

 

ケンスケのことを『あんた』と呼ぶのはこの日が初めて。

あたかも自分のことをよく知っている特別なオトコ扱いをしてみたりするのが心地いい。

 

山浦「え!なんか偶然?の、再会?的な~?!?!始まって早々仲良く痴話げんかとかやめてくださいよぉー」

 

こうして朗らかな雰囲気で飲み会が始まった・・・。

 

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(おい、シオリ!もう起きろ・・)

 

眠気まなこでうっすら目を開けると、そこには心配そうにのぞき込むケンスケの顔があった。

 

畳にはウィスキーのからのボトルが転がっている。 どうやら飲みすぎてワタシは途中でつぶれたらしい。

 

「え・・・・?みんなは!?」

 

「みんなは2次会のカラオケに移動したよ!おまえ起きないからオレまでカラオケ行きそびれたよ!」

 

ワタシは今日のオトコの顔面レベルが中の上だったこと、久しぶりにケンスケと再会できたことで テンションが上がり、どうやらかなりのハイピッチで酒を飲んだらしい。

 

シオリ、絶体絶命。 今までプライドを守るため、ウソで塗り固めた毎日を8年間も続けてきたのに、その努力が一瞬で水の泡となっていく・・・

 

後輩の前で失態を見せてしまったかもしれない。 さらにはケンスケばかりか、他のダンシたちにもドン引きされてもう絶対嫌われた。

 

少しの間、放心状態に陥っていると、ケンスケが低い声で不思議そうに問いかけてきた。

 

 

「おまえさ、なんかすげえ変わったよな?それとも単に酔っぱらってるだけ?・・なんか、お前見てるとイタイ。」

 

ワタシのプライドは完全に音を立てて崩れていった。